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認知症の母へ贈る、感謝のベール:あいこさんと娘さんの物語

認知症の母へ贈る、感謝のベール:あいこさんと娘さんの物語


これは、認知症を患った「あいこさん」と、献身的に母を見守り続けた娘さんの心温まる物語です。

あいこさんは、怒ることなく、料理と家事を完璧にこなし、家族のために生きることを喜びとした女性でした。いつも美しく髪を整え、エプロン姿がよく似合う方だったそうです。

70歳を過ぎた頃から物忘れが始まり、数年かけて症状は進行。76歳で認知症と診断されました。78歳で長年連れ添ったご主人を亡くし、一人になってからは施設に入居。それから14年間、嫁いだ娘さんご夫婦があいこさんを献身的に支え続けました。

92歳のあいこさん

92歳になったあいこさんは、娘さんの名前も顔も、そしてご自身の名前すらも忘れてしまっていました。それでも娘さんは、いつもそっと寄り添い、「大丈夫よ」と優しく語りかけました。あいこさんの着替えを選ぶ際には、小さなかわいい襟のブラウスや小花柄の服など、あいこさんが好きだった色やデザインを選びました。おしゃれ好きだったあいこさんのために、娘さんは季節ごとに新しい服を届けていました。

名前を忘れた母へ、名前を刺繍したベールを

ある日、娘さんの元に施設から「あいこさんが肺炎で入院されました」と連絡が入ります。覚悟を決めた娘さんは、「金の絲京都」の制作室に『冠紗』の依頼をされました。

制作室は、娘さんとあいこさんのこれまでの歩みを丁寧に聞き、あいこさんのお好きな小さなお花をあしらったシンプルな顔冠紗に、ご自身の名前すら忘れてしまったお母様のために、金糸で「Aiko」と名前を刺繍しました。

『冠紗』が届けられてまもなく、あいこさんは無事に退院され、しばらくは穏やかに過ごされました。そして数ヶ月後、あいこさんは安らかに旅立たれました。娘さんからは、冠紗を付けたあいこさんの写真と共に、「ベールのおかげで、母の顔が優しく、きれいになりました」という心温まるお手紙が届けられました。

このベールは、単なる死装束ではありません。娘さんの母への深い愛情と感謝が込められた、かけがえのない贈り物だったのです。

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